
2006年10月から開始した「眼鏡市場」業態への転換は2007年3月期以降の同社の企業価値向上の原動力となっているものの、同社の株価はすでに 2006年夏場ぐらいから上がり始めていたことから、「眼鏡市場」だけが同社の企業価値向上の原動力となったという捉え方は正確ではない。では「眼鏡市場」という金鉱脈を当てるまで、同社はどのような経営を展開していたのか。
まず2005年の冨澤社長のリーダーシップとコミュニケーションを具現化した全店舗への社長訪問は、同社の基礎事業力の向上につながっているとの認識が必要である。その時に実施された現場サービス改善が、2007年3月期の既存店売上高の落ち込みに歯止めをかけることにつながっているのである。これらのサービス改善は後の「眼鏡市場」業態の確立に寄与しているわけだが、仮に「眼鏡市場」業態が確立されなかったとしても、収益力の向上にはつながっているのである。
また2006年3月期には、調剤薬局事業からの撤退を断行している。株価が上がり始めたのは、2006年5月の決算説明会以降であることを考えると、既存店売上の底入れと共に、子会社の整理・統合を含む事業の選択と集中が評価されたのではないだろうか。調剤薬局事業という本業と事業構造の異なる事業からの撤退は、少なくとも社長の時間という経営資源を眼鏡小売事業に集中することに貢献し、後の事業革新の土台になったと考えられる。
企業価値向上のために経営者は何に取り組むべきか。何よりも優先して考えなければならないことは、当り前といえば当り前だが、企業ファンダメンタルの向上すなわち事業の収益力の向上である。
そのためには、現業の「事業コンセプトの見直し」という観点が極めて重要な論点となる。収益性の低いビジネスをいくら拡大しても、全体の収益性は向上しない。したがって、顧客にとっての魅力づけと収益構造を変えるような事業コンセプトの見直しが必要となるのである。

このような事業コンセプトの見直しは、現状の否定さえも厭わず現業の革新を追い求める経営姿勢が欠かせない。すなわち、経営者自らが築き上げてきた成功体験を否定することも必要であり、それを可能とする高い自律性が求められることになる。
ある事業で事業革新を実現して収益力を向上したとしても、ほかの事業が収益の足を引っ張っているとなると元も子もない。複数の事業を有する企業の場合、各々の事業が将来にわたって経営資源を投入すべき対象であるかどうか見極めておく必要がある。いわゆる「事業の選択と集中」である。
事業の選択と集中は、決して容易な経営課題ではない。すべての事業はその企業にとって何らかの意義や歴史があるからである。その断行には、過去の成功体験からの決別と各事業を客観的に評価できる一段高い視野が必要になる。
多くの課題や問題は、現場不在で解決できるものはない。従って経営としては、現場の実態を絶えず正しくつかむ努力が必要であり、その課題解決についてリーダーシップを発揮することが求められる。
信越化学工業の金川社長やヒロセ電機の酒井元社長のように、あえて現場に出て行かずに詳細な計数を見て経営判断するという経営スタイルもある。しかし、オーナー企業で成長途上にあるような企業であれば、経営者自らがリーダーシップを発揮する必要性がある。事業革新の実現には、そのような「企業の基礎事業力」を高める地道な努力を欠かすことはできない。
〔謝辞〕 本事例研究を行ううえで、株式会社メガネトップ 冨澤社長には快くインタビューに応じて頂くなど、多大なご協力を頂いた。改めて御礼申し上げたい。なお、本資料は、同インタビュー結果のほか、同社IR資料等を基に作成している。
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