経営者の智恵袋

3.企業の外部(投資家)から見た場合の論点

企業不動産は、バランスシートの中で大きな割合(前記推定では、時価ベースで上場企業の資産の25%)を占めるものであるが、これを企業の外部、特に投資家から見た場合の論点を整理したい。いずれの論点も、企業の経営者に対し、企業価値向上の一環として、企業不動産の有効活用や管理手法の最適化を考えさせる大きな要因となっていると思われる。

  1. 保有不動産の有効活用

    言うまでもないことであるが、日本でも近年、企業価値向上をめぐってファンド等の機関投資家を中心に、株主が経営陣に対して積極的に意見を表明し、これに伴って、経営陣は常に株主のプレッシャーを意識しながら経営にあたっているという状況が見られる。この状況の中で、保有不動産が有効に活用されているかどうかを含め、企業価値向上につながる「CRE戦略」がとられているかどうかは、経営陣と株主が共有すべきチェックポイントになるであろう。具体的に例示すると、コア事業で使用している不動産については、保有と賃借のメリット・デメリットを今一度見直すことが必要であろうし、ノンコア事業で使用している保有不動産については、それが企業価値向上の観点から最善の用途かどうかを、当該不動産保有の適否を含めて見直す余地があるだろう。

  2. 不動産価値に着目した投資家の登場

    保有不動産の有効活用という論点の延長線上にあるのが、不動産価値に着目した投資家の登場である。いわゆる村上ファンドが、保有不動産の含み益やバリューアップの可能性を狙いとして阪神電鉄の株式を買い集めたことは記憶に新しい。Jリートへの投資が中心であった海外の不動産ファンドが、まとまった不動産を保有する企業の株式へと投資対象を広げている事例も指摘されている。直近の事例としては、結果として成立しなかったが、不動産ファンド運営会社の(株)ダヴィンチ・アドバイザーズ(以下「ダヴィンチ」)による、(株)テーオーシー(以下「テーオーシー」)へのTOBが注目を集めた。本年5月21日付け公開買付届出書によると、ダヴィンチは、テーオーシーの現経営陣の経営手法につき、保有不動産の含み益を有効に活用していないとした上で、「保有不動産の含み益を活用した借入れにより収益不動産を取得すること」と「西五反田TOCビルを同等の価値を持つ収益不動産と入れ替えることにより、同ビル建替期間中の収益の落ち込みを避けること」を主な内容とする事業計画の実行により、株主利益を向上させることをTOBの目的としている。 保有不動産の有効活用への取り組みが不十分であったり、不用意に不動産を保有していたりすると、このような投資家が行動を起こす可能性があるわけだ。参考文献*5によると、米国には、「企業が不動産を保有すればするほどM&Aの標的になる確率が高い」という実証研究もあるという。

  3. コア事業の価値と不動産価値

    保有不動産の有効活用に密接に関わる議論として、バランスシート中の不動産比率が高い企業についてはコア事業の価値と不動産価値が混在した状態であり、投資家としては、何のリスク・リターンをとっているのかが不明確となるという指摘がある。これにより、コングロマリット・ディスカウントのような状態になり、企業価値が最大化されていないという議論だ。単に分かりにくいという理由のほか、下記のような背景が考えられる。

    1. コア事業で使用している保有不動産については、往々にして自社使用が不動産価値最大化の用途かどうかをあらためて考えることをしない
    2. 未利用の土地は収益貢献しないことから企業価値に反映されにくい
    3. 減損会計は含み損を顕在化させるが含み益は顕在化しない

    この問題に対する典型的な解決策として、コア事業と不動産を分離して別々の投資対象とする事例があるが、これは後述する。

  4. 不動産保有に伴うリスク

    1で、不動産保有と賃借のメリット・デメリットを今一度見直すべきであるとしたが、そこで忘れてはならないのが、不動産保有に伴うリスクである。具体的には、前節の各種制度変更の中で見た通り、固定資産の減損会計適用等の会計制度変更によって、保有不動産の収益力や時価が低下した場合に、不動産価値の低下が損益計算書に大きな影響を与えるという意味での価格下落リスクが大きい。例えば、参考文献*3は、当該リスクの大きさを理解するために、以下の簡単な試算を示している。

    • 過去のデータから、日本の不動産の価格変動は平均すると年率7~10%程度。場合によっては20%、30%の変動もあり得る。
    • 一方、資本金1億円以上の法人の営業利益の保有不動産(時価)に対する割合は13%。
    • 資産価値の下落と会計上の損失とは必ずしも一致しないが、仮に保有不動産の価値が年間13%下落したら、すべての営業利益が吹き飛ぶほどのインパクトがあると捉えられる。上記過去データによれば、年間13%は十分に起こり得る下落幅。

不動産保有に伴うリスクとしては、価格下落リスクの他にも下記のような多様なリスクが挙げられる。

  1. 流動性リスク(株式などに比べ、売りたいときに売れないリスクが高い)
  2. 不動産価格上昇による経営指標(ROAなど)低下のリスク(コア事業とは別の要因での変動)
  3. メンテナンスコスト高騰のリスク(オーナーとしてテナントに適時に転嫁できないもの)
  4. 災害、テロ等の被害発生のリスク
  5. 自社物件であるために移転、撤退等の判断が遅れるリスク(立地、機能の陳腐化など)
  6. 法規制・環境基準等変更に伴うリスク(法令違反、コスト増など)
  7. 環境汚染の加害者となるリスク(土壌汚染、アスベスト等)
  8. 工作物責任に係るリスク(ビル外壁の落下、回転ドア・エレベーター等の事故など)
  9. 不動産保有に伴う資金の固定化、有利子負債の増大に係るリスク

以上のように、価格下落をはじめとする様々なリスクがあることから、投資家の観点からは、大量の不動産を保有している企業は、一つのハイリスクの(従って理論的にはハイリターンが要求される)事業を抱えているように見える。確認のために業種別のβ(ベータ)値(市場全体の株価が1変動した場合に各業種の株価がいくら変動するか)を比較すると、不動産業のβ値は相対的に高い水準にあることから、株式市場では、他の大半の事業に比べて不動産事業のリターンのぶれは大きいと見られていることが分かる。
一方、優良不動産の価格が上昇に転じている中で、戦略上必要な不動産につき、「持たざるリスク」もあるという指摘もあり、不動産保有と賃借のメリット・デメリットの検討は、一筋縄ではいかない。

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