経営者の智恵袋

2.いまなぜCREなのか

企業の保有する不動産の保有(投資)形態や管理手法を最適化することの必要性自体は、目新しい課題ではない。それにもかかわらず、最近の日本において、なぜ「CRE」や「CRE戦略」という言葉を使って当該最適化の重要性が盛んに議論されるようになったのだろうか。主要な背景としては、下記3点が挙げられるだろう。

  1. 減損会計の適用をはじめとして、近年、企業をとりまく各種制度の改変が続いている
  2. 保有不動産の有効活用やリスクの抑制を含めた、企業価値向上に対する株主からのプレッシャーが高まっている
  3. 証券化等の手法の普及やJリート、私募ファンドの規模拡大など、不動産の有効活用や処分における受け皿が整い、不動産の流動性が高まると共に手法の選択肢が広がった

上記3点のうち、本節では1と3につき下記の通り補足し、2については、次節で詳しく見ることにする。

(1)各種制度の改変

ここでは、特に参考文献*2を参考に、企業不動産、ひいては企業経営に大きな影響を与える制度改変につき整理する。企業に何らかの対応を迫る改変((a)~(e))だけでなく、企業に柔軟な選択肢を与える方向の改変((f)、(g))もある。

  1. 固定資産の減損会計

    2005年4月からすべての上場企業に適用されることになった固定資産に関する減損会計により、一定の要件に該当する場合には、不動産の価値下落分を損失処理することが義務付けられた。これにより、企業としては、従来以上に、保有する不動産の収益性の維持・向上に気を配ることや、自社でそれができない不動産については、処分等の対応を検討することの必要性を、常に考えさせられる状況になっている。

  2. 販売用不動産への低価法適用

    すべての企業に該当するわけではないし、定義によっては「企業不動産(CRE)」に含まれないが、関連する制度変更として、販売用不動産について、 2008年4月から評価方法の低価法(時価が簿価を下回っていたら減価)への一本化が予定されていることが挙げられる。前倒し適用を始めている企業もあるが、この変更により、販売用不動産を保有する企業は、原価法と低価法が選択できたこれまでに比べ、在庫の圧縮など、一層、時価変動を意識した運営を行う必要が出てくる。

  3. 国際会計基準との整合性問題

    2009年1月をターゲットとして、世界的に会計基準を国際会計基準に収斂させる動き(コンバージェンス)が進行中であり、日本の会計基準も国際会計基準に近づくことが予定されている。企業不動産への影響として特に指摘されているのは、固定資産の減損会計(上記(a))が一層厳格化される可能性と、これまで取得原価で評価してきた社宅等の福利厚生施設や未利用地についても時価評価を強制される可能性である。

  4. その他の会計制度の変更

    以上のほかにも、2007年4月から適用されるSPC(特別目的会社)開示対象の厳格化(SPCについての特則の適用を受けなければ連結子会社となっていたSPCについては、連結財務諸表の注記事項として、当該SPCとの取引概要等を開示することが求められる)や、2008年4月に予定されているリース取引のオフバランス基準厳格化(不動産関連としては、従来オフバランス処理していた賃貸建物につき、所有権移転外ファイナンス・リースに該当するものについては売買取引と同様のオンバランス処理が要請される)など、広義の企業不動産に影響のある会計制度の変更は、枚挙に暇がない。

  5. 企業のガバナンスに関する制度改変

    いわゆる日本版SOX法(第7回「経営者の智恵袋」ご参照)によって、上場企業は、今後、保有する不動産についても、内部統制の一環として対外的に公表するマネジメントシステムに則って管理をしていくことが必要となる。そのため、各企業において、保有する不動産のマネジメントのあり方を見直す動きはもちろん、この観点からも、不要な不動産については保有継続の是非をあらためて検討する動きが出てくることが予想される。

  6. 会社法関係の制度改変

    2001年の商法改正で会社分割の手続が容易になったことにより、会社分割による不動産の切り出しが現実的な選択肢になったとされる。また、会社法については、2007年5月に合併等の対価の柔軟化が施行されたため、M&Aの手法の選択肢が広がったが、これが不動産対策としてのM&Aの活発化につながり得るとされる。一方、当該制度変更により、外国企業による優良な企業不動産をターゲットとしたM&Aも増加する可能性も指摘されている。

  7. 信託法関係の制度改変

    社会経済情勢の変化に対応するため、2006年に信託法の大改正が実施された。詳細は割愛するが、多様な信託の利用形態が認められることになったため、信託制度を活用した不動産の流動化が現在より容易になったり、新たな手法が可能になったりする方向性が指摘されている。

(2)証券化等の手法の普及

日本で不動産の証券化が実施されるようになってから約10年が経過するが、次図からは、件数、資産額(いずれも各年度のフローベース)共に、直近のレベル(2006年度は1,661件、7.8兆円)に達したのはここ2、3年のことであることが分かる。そのことにつき、関係者のノウハウ・経験の蓄積や制度インフラが整ってきたことにより件数・資産額が増大してきたという見方ができるのはもちろんであるが、逆に、前記1や2により、近年、証券化等の手法が活発に利用されるようになったことも要因であると考えられる。さらには国際的な相対比較では日本の不動産への投資が有利であるとの見方から、海外の資金が大量に流入しているという背景も不動産証券化の実績増大に寄与していると考えられる。なお、証券化された資産額の累計は約25兆円に達している。

図2 不動産証券化の実績の推移

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