
UCLAビジネス・スクールのジャコービィ教授は、日米の個別企業計12社(社名は記されていない)の人事部門のありかたを調査した上で、人材マネジメントの観点から、米国企業と日本企業の相違点や共通点を整理した(参考文献*6)。本稿でこの研究に着目した理由は、これまでの「経営者の智恵袋」でも示している通り、企業の戦略や業績に対して、「人材」が最も重要な要素であると考えるからである。様々な興味深い論点を含んだ文献であるが、本稿の文脈からは、ジャコービィ教授の主張のうち、下記2つのポイントに着目したい。
グローバル化により、日本が米国の考え方や制度に影響されてきたことは間違いないが、往々にして忘れられがちなのが、日本から米国に向かう逆の流れも存在してきたということである。人的資源の重視を含め、日本を起源とする経営慣行も米国で広く実践されており、これは日本経済が絶好調であった1980年代に限らず、1990年代以降、現在まで見られる傾向である。企業経営のあり方が、グローバル化によって収斂する方向にはあることは間違いないが、一方的に米国寄りの一地点に収斂しているわけではなく、産業別や個別企業の特性などに従って、多様な地点に収斂しているのが実態である。
米国でも、財務重視型(いわゆる時価総額経営)のアプローチではなく、資源ベース・アプローチをとる企業が台頭してきた。資源ベース・アプローチとは、特に人材の重要性を意識し、従業員参加、従業員の教育、そして雇用保障を兼ね備えた企業が高レベルの生産性を示し、長期に及ぶ好業績を挙げるという考え方である。米国では、こちらのアプローチをとる企業が主流になりつつあるというところまでは至っていないが、創業者かその家族の一員が強い影響力を保持している、いわゆるオーナー系の企業を中心に、無視できない存在となっている。
*上記2つのポイントを総合するメッセージとして、参考文献*6に引用されている米「ビジネス・ウイーク」誌の下記一節は分かりやすい。
このようなメッセージが、米国から出てきていることは興味深い。
昨今の日本におけるM&Aの実施状況の活発化や各種の法制度の整備状況を見るにつけ、今後とも外資系企業による日本企業への資本参加が増加することは、間違いないと感じられる。また、日本の経済規模に比べ、対内直接投資が極めて少ないということはしばしば指摘されるが、参考文献*2によれば、 2001-2003年における日本の対内直接投資のGDP比は、アフリカの小国ブルキナファソに次いで、統計対象の140ヵ国中132位であるという(UNCTAD(国連貿易開発会議)報告)。日本の社会基盤や制度の充実も考え合わせると、マクロで見ても、日本への投資は、まだまだ増加の余地があると言えるだろう。
そのような環境下、外資系企業についての知見を深めることが本稿の狙いであった。外資系企業を資本提携の候補先と位置づけるか、事業面での競合相手と位置づけるかによっても見える景色が変わるであろうが、ここまでに挙げた参考文献から分かったことをあらためてまとめると、以下の通りである。
「三角合併」解禁の影響の議論の中では、ともすれば負のイメージが先行しがちな外資系企業であるが、外資系企業の中でも特に株主重視が徹底していると考えられる米国企業において、実は従業員を最も重要なステークホルダーと位置づける経営者が増えているという指摘があることは、第3回「経営者の智恵袋」(従業員重視の経営)で述べたとおりである。働きがいのある会社にすることは、従業員のためだけでなく、経営や業績にも好影響をもたらすということに、米国企業の経営者が気付いているからであり、「働きがい」で上位にランクされる企業の株価上昇率が市場平均を上回るという研究結果があることも述べた。意外に思われるかもしれないが、外資系企業が日本企業への資本参加によって一定の成果を挙げている場合において、その要因の1つが「従業員重視」である可能性は高い。しかしながら、一方で「従業員重視」の定義または手法については、必ずしも共通した認識が存在するあるわけでもなく、また全ての企業に通用する万能の秘薬があるわけでもないだろう。あくまで従来の常識を新しい目で見直してみる際のきっかけとして、貴社の属する業界・業態における外資系企業の実践する「従業員重視」から学ぶべき点があれば真摯に学ぶべきであろう。
もし、貴社の株主名簿に外資系企業が現れたら、外資系企業の経営者から面談の依頼が入ったら、まずはその相手企業が貴社と何を実現したいと思っているのか、またその実現のためにどのような「従業員重視」を行う考えなのか、ざっくばらんに意見交換してみることも一考の余地があるのではないだろうか。
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