
人材マネジメントの分野では、人材を引き寄せ、引き留めることをA&R(Attraction & Retention)という。人材の流動化が進む中、A&Rは平時においても重要な戦略であるが、M&Aという有事において、その重要性は一層増すことになる。被買収側の企業の従業員が流出しないようにすることが大切であることは言うまでもないが、M&A実施の前後の打ち手を間違えれば、買収する側の企業の従業員のモチベーションが下がることもあり得る。人事・組織コンサルティングのウイリアム・マーサー社は、M&Aを実施する際の経営陣によるA&Rの具体的活動として、以下の項目を例示している(*9)。全体に直訳調ではあるが、参考になる点も多い。
ウイリアム・マーサー社はまた、M&Aを離れた一般論として、米国企業が人材の引き寄せ、引き留めの観点から、「いかに会社と社員との間に強い信頼関係を築き、維持するか」、「いかに上司が部下を愛し、それを部下に実感させるか」といったことに腐心しているのと対照的に、日本の大企業の経営層から、「社員が辞めたら、代わりを雇えばよい」、「社員が辞めてゆくのは仕方がない。去る者は追わず、だ」といった発言を耳にするのは、驚くべきことだと指摘している(前掲書)。弊社も「経営者の智恵袋」第3回(従業員重視の経営)において、「米国企業の株主重視に対して、日本企業は従業員重視の傾向があると考えがちであるが、昨今の両国の状況からは、それが逆転している可能性もある」と指摘したが、再度指摘しておきたい。
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