
神戸大学の砂川(いさがわ)助教授によると、米国では上位25社の利益の合計が事業会社全体の合計額の半分以上を占めており、業界再編と業界の垣根を越えた統合、つまりM&A(Merger & Acquisition=企業の合併・買収)が一因であるという(*1)。我が国でもM&Aの動きは活発化している。失敗に終わった敵対的TOB の事例もあるが、成約にいたる案件は着実に増えている。M&A仲介のレコフによると、日本企業が関わるM&Aの金額(公表ベース)は、 2006年も9月時点で9兆円を超えており、年間で3年連続の10兆円越えがほぼ確実になっている(*2)。レコフがホームページで公表している統計データを見ると、例えば1995年から2005年の10年間に、件数も約500件から約2,700件へと5倍以上となっている(*3)。
M&Aの目的として、「時間を買う」という言葉がしばしば挙げられる。何を買うのかをより具体的に言うと、人材、技術、ノウハウ、ブランド、店舗・営業拠点、流通チャネル、事業規模、時価総額、・・・など、様々な要素が挙げられるが、これらを自前で積み上げていく代わりに、M&Aによって手に入れることを総称して、「時間を買う」と表現しているわけである。人材や技術などを自前で積み上げる代わりにM&Aによって手に入れることは、米国ではA&D(Acquisition & Development)と呼ばれる。R&D(Research & Development=研究開発)のもじりであろう。砂川助教授は、前出の小論において、欧米企業が経済合理性に基づいて技術や設備を売買するのに慣れているのに対し、日本ではこうした考え方は定着しにくいだろうとしている。
仮に日本で、A&Dの考え方に基づくM&Aが定着しないとしても、米国の事例として見ておきたいのが、シスコシステムズである。ルーターやスイッチなどインターネット関連の通信機器のトップメーカーである同社は、1984年の創業以来20年強の間に100社以上を買収してきた。IT業界という変化の早い世界では、自前での積み上げでは変化についていけないという考え方で、A&D戦略に最も積極的な企業とされる。注目すべき点は、同社によるM&Aの成功確率である。ハイテク業界におけるM&Aは90%が失敗に終わると言われる中、同社によるM&Aの成功率は自称70%(社長兼CEOのチェンバース氏へのインタビュー(*4)による)。チェンバース氏はインタビューの中で、同社のM&Aについての基本ルールを5つ挙げる。
以上の5項目のうち、3つはクリアしていないと買収には踏み切らないようだ。特に、買収した企業の従業員が流出しないことが、同社のM&Aの成功の秘密であるとしばしば指摘される。チェンバース氏によれば、同業他社のエンジニアやマネージャーの40~80%が2年以内に退職するのに対し、同社が買収した企業の従業員の退職率は4%(前出のインタビュー)。ストックオプションの付与といった手法も無視できないが、M&Aの成功事例を積み上げることにより、そもそも同社に買収されるのは光栄なこと、という認識が業界内に形成されていることが大きいようである。
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